認知症・腰痛がある方の歩行目標:具体的なアプローチ方法 

みなさん、こんにちは!
子供7人を育てる30代フリーランスの作業療法士、岩崎です。

今日は、ある80代の入居者様のケースを通じて、
介護現場での目標設定の難しさと重要性、
そして具体的なアプローチ方法についてお話しします。

目次

入居者様の状況 

まずは、今回お話しする入居者様についてご紹介します。

・年齢:80代
・主な症状:認知症、腰痛、側弯症あり
・移動手段:主に車椅子を使用、リハビリ時のみ歩行
・運動への態度:好きではない、痛みを恐れて動きたがらない
・目標:ケアマネージャーとの会話では「車椅子卒業」を目指すと話す

目標設定の難しさ

この入居者様の事例は、介護現場での目標設定の難しさを如実に示しています。

1. 希望と現実のギャップ

   希望:歩きたい、車椅子から卒業したい
   現実:痛みがあり、積極的に歩こうとしない

2.言葉と行動の不一致

・ケアマネージャーとの会話:歩きたいと表明
・実際の行動:痛みを理由に歩行を避ける

3. 身体的制限と目標のバランス

 認知症、腰痛、側弯症という複数の課題
これらの症状を考慮しつつ、どこまでの目標が適切か

これらの難しさは、多くの介護現場で直面する課題だと思います。
みなさんも似たような経験はありませんか?

具体的なアプローチ方法

入居者様の「歩きたい」という希望と痛みによる制限のバランスを取りながら、
以下のようなアプローチを実施しています。

1. 安全確認と生活の中での歩行機会の創出

リハビリ時に安全確認を徹底
日常生活の中で少しずつ歩行機会を増やす

例:自室から食堂までの歩行など

2. 歩行補助具と介助方法の最適化

リハビリ時に適切な歩行補助具を選定
歩行介助の位置や方法を確認し、最適化

3. 痛みのケアと歩行量の調整

歩行機会が増えた際の痛みの状況を慎重に観察
痛みの程度に応じて、歩行機会を増やすか減らすかを柔軟に判断

ここから目標設定のポイントを以下に設定しました。

目標設定におけるポイント

上記のアプローチを踏まえ、
目標設定において重要なポイントを以下にまとめます:

1. 安全性を最優先する
2. 日常生活に根ざした目標設定
3. 段階的な目標設定
4. 痛みへの対処を組み込む
5. 適切な補助具の選択と使用
6. 多職種での情報共有と連携
7. 定期的な評価と目標の見直し

これらのポイントは、Cochrane Database of Systematic Reviewsの「Exercise interventions for preventing falls in older people living in the community」[1]という研究レビューの知見とも合致します。

この研究では、高齢者の転倒予防には、
バランス訓練や筋力強化などの運動介入が効果的であることが示されています。

自宅復帰後の変化

この入居者様は最近、施設から自宅に戻られました。

自宅では新しい歩行補助機器を導入し、
施設にいた時よりも歩行量が増えたそうです。
でも、自宅でも痛みによる制限は続いているようです。

ある論文では、高齢者の痛み管理の重要性と、
個別化されたアプローチの必要性が強調されています。

この入居者様のケースでも、
痛みへの対処が重要なポイントになっていますね。

まとめ

この事例から、私たち専門職が学べることは多いです:

1. 本人の希望を尊重しつつ、現実的な目標設定をすることの重要性
2. 言葉で表現される目標と、実際の行動のギャップに注意を払うこと
3. 環境の変化が目標達成に与える影響を考慮すること
4. 痛みなどの阻害要因に対するアプローチも目標に含めること
5. 日常生活の中で自然に目標を達成できるような工夫の必要性

適切な目標設定は、入居者様の生活の質を高め、
私たち専門職のケアの方向性を明確にします。

常に入居者様の声に耳を傾けつつ、
専門的な観点から現実的で意義のある目標を
一緒に作り上げていくことが、私たちの重要な役割なのです。

みなさんも、担当されている方の
「隠れた能力」を引き出すチャンスを逃さないよう、
常に観察と工夫を心がけていきましょう。

それでは、また!

参考文献
[1] Sherrington, C., et al. (2019). Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews, 1(1), CD012424.

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